「わぁ、いいにおい」
スポンジケーキが焼けたみたいだから、ノートンさんにオーブンから出してもらったんだ。
そしたら厨房の中に甘い、とってもいいにおいが広がったんだよね。
「ルディーン君。これはすぐに型から外してもいいのかい?」
「うん。型はあっつくなってるから、早く外しちゃったほうがいいと思うよ」
スポンジケーキが覚めないと、生クリームを塗る事ができないでしょ?
だから早く冷めるようにって、焼きあがったばっかりのスポンジケーキたちをノートンさんに型から外してもらったんだ。
「あのぉ、ルディーン君」
そしたらね、そのスポンジケーキを見てたカテリナさんが、僕に聞いてきたんだよね。
「何個か焼いたみたいだけど、これ全部ケーキって言うお菓子にするなのですか?」
「うん、そのつもりだけど?」
ケーキを作るために焼いたんだから当たり前じゃないかって思いながら僕はそうだよって答えたんだけど、そしたらカテリナさんはちょっとしょんぼりしちゃったんだ。
あれ? カテリナさん、さっきケーキを食べてみたいって言ってたよね?
なのに何でそんなお顔をするんだろうって、僕、頭をこてんって倒したんだ。
そしたらさ、スポンジケーキを全部型から外したノートンさんがそんな僕を見てなんで解んないかなぁって。
「ノートンさんは、カテリナさんが何で全部ケーキにするの? って聞いてきたのか、解るの?」
「ああ。簡単な事だからな」
ノートンさんはね、ニカって笑いながらその理由を教えてくれたんだ。
「スポンジケーキはそれ単体でもとても美味しいだろ? 焼き立てが目の前にこれだけあるのだから、食べたいと思うのは当たり前なんじゃないかな?」
「あっ、そっか! そういえばお家にケーキを作った時も、スティナちゃんが焼けたばっかりのスポンジケーキを食べたそうにしてたっけ」
あの時もまだ出来上がりじゃないよって言ったら、それを聞いたスティナちゃんはしょんぼりしちゃったもん。
カテリナさんもそれとおんなじで、スポンジケーキを食べられないんだって思ってしょんぼりしちゃったんだね。
「そこで提案なんだが、何個かあるんだからその一つを切り分けて、試食をするって言うのはどうだい?」
「うん、いいよ!」
さっきも初めて見る生クリームを、みんなで試食したもん。
焼き立てのスポンジケーキだって食べた事あるのは僕だけだから、カテリナさんだけじゃなくみんな食べてみたいよね。
って事で、焼けたスポンジケーキのうちの一個を切り分けて、みんなで試食する事になったんだ。
「なるほど、これは確かに美味じゃのぉ」
「ええ。確かに焼き立てで、とてもおいしいですわね」
ロルフさんやバーリマンさんは、まだあったかいスポンジケーキをおいしいおいしいって喜んで食べてくれたんだよ。
でもね、何でか知らないけど、ノートンさんとカテリナさんはちょっと食べては、あれ? ってお顔をして頭をこてんって倒してたんだ。
「ノートンさん、どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんだ」
僕がどうしたの? って聞くとノートンさんは何でもないよって笑ったんだよ?
だけどカテリナさんは、そんな事ないよって。
「大したことあります。ルディーン君。このスポンジケーキ、何かしたですか?」
「あれ? なんか変だった?」
「いや、なんと言うかなぁ。前に買って食べたものとは少々味わいが違うというか……」
「はい。香りがよくて、店で買ったものよりこちらの方がおいしいなのですよ」
ノートンさんたちは、アマンダさんのお店のスポンジケーキを食べた事があるでしょ?
だからそれを思い浮かべながら食べたそうなんだけど、そしたらそれよりもずっとおいしかったもんだから二人とも何で? って思ってたんだって。
でもさ、二人が食べたのって僕がアマリアさんに教えてあげたやつだよね?
ならあっちも僕が教えた通り作ってるんだから、おんなじ味のはずなんだけど……何が違うんだろ?
そう思ってちょっと考えてみたんだけど、そしたらすぐに何で違うのか思い出したんだ。
「あっ、そっか! アマリアさんとこで作ったスポンジケーキ、バターを入れてなかったっけ」
「バター!? そうか、確かにあちらにはバターの香りがしなかった」
そう言えばアマンダさんにスポンジケーキを教えた時、バターがあるかどうか解んなかったから入れてなかったんだけ。
それを教えてあげたらノートンさんはびっくり。
「すでに出回っているものだからと気軽に考えていたが……この街のオリジナルともいえるものより、さらにおいしいものを教えてもらえるとは」
このスポンジケーキはアマンダさんに先に教えてあげて、それをオーナーさんに売ってもいい? って聞かれていいよってお返事したもんでしょ?
なのにそれよりおいしいバター入りのを作っちゃったもんだから、これはちょっと問題があるよってノートンさんは言うんだ。
「このスポンジケーキは、すでにあの店の看板商品だからなぁ。なのにそれを教えたルディーン君から、より完成度の高いレシピを俺たちだけが教えてもらったというのは流石にまずいだろ」
「そうですね。私たちだけが知っているのはいけないのです」
ノートンさんたちが研究をしてもっとおいしいものを作ったんだったらいいけど、これはどっちも僕が教えてあげたものでしょ?
だから作り方を教えたものの責任として、アマンダさんにもこのレシピを後でちゃんと教えてあげないとダメだよって言われちゃったんだ。
「ルディーン君。ケーキという菓子は、ここからどのような作業をしたら完成するんだい? このスポンジケーキに生クリームを塗ったら完成と言う訳ではないのだろう?」
スポンジケーキの味の違いが分かって、ノートンさんの興味はケーキに戻ったみたい。
作り方を聞いてきたもんだから、僕は果物を間に挟んだり、上にのっけたりして作るんだよって教えてあげたんだ。
「でもね、どんなのでもいい訳じゃないんだよ?」
「なるほど、生クリームやスポンジケーキと相性のいいものがあるんだな」
ノートンさんの言う通り、僕がお家で作る時に使ったベリーやアマショウの実なんかは生クリームに合うよね?
でもベニオウの実みたいに果汁がいっぱい入ってるやつは、スポンジケーキがベタベタになっちゃうから、ケーキには向かないんだ。
だからその事を教えてあげると、ノートンさんはそれならいいものがあるよって。
「いいもの?」
「ああ。実はこの国の中央でここ数年話題になっているベリーがあってな。その苗を領主様が持ち帰って、近くの村で栽培を始めたんだ」
そのベリーはね、魔力溜まりが近くにあるとこじゃないとうまく育たないんだって。
だから普通のとこじゃ作れないけど、イーノックカウの近くの森には魔力溜まりがあるでしょ?
ならそこで作れば育つんじゃないかなぁって、領主様がそのベリーの苗を何本か貰って来たんだってさ。
「さっき試食した生クリームの感じからすると甘さ当然として、ある程度の酸味も必要だろ? そして何より香りだ。それが弱ければ、バターと同じ脂質からできている生クリームに負けてしまうんじゃないか?」
「うん。だからね、僕は森で採れたベリーをスキルで熟成させて使ったんだ」
「なるほど。だがな、このベリーなら採れたてでも生クリームに負けないと思うぞ」
ノートンさんはそう言うとね、壁のとこに置いてあったおっきなかごを持ってきたんだ。
「今日、旦那様にお出ししようと思って持ってきて正解だったな。これが中央で話題のクイーンベリーだ」
僕ね、ノートンさんにそれを見せられてびっくりしたんだ。
だってさ、そのクイーンベリーっての、前の世界にあったおっきめのイチゴを3つ並べてくっつけたみたいなのだったんだもん。
「旦那様にお出しする前に試食したんだが、酸味と甘みの調和がとれたとても美味しいベリーなんだぞ」
「僕、食べてみたい!」
「おお、いいぞ。試食しないと本当にケーキに使えるか解らないからな」
ノートンさんはかごの中からクイーンベリーを一個取り出すと、ナイフでスライスして僕に出してくれたんだ。
そしたら中もイチゴそっくりでびっくり。
味はイチゴよりちょっと酸っぱいかなぁって思うけど、それでもケーキにのっけるんだったら絶対おいしいと思うんだよね。
「ノートンさん。これでケーキを作ったら、絶対おいしいと思うよ」
「そうだろう、そうだろう」
僕がケーキに絶対合うって言ったもんだから、ノートンさんもにっこり。
そろそろスポンジケーキも冷めてきたって事で、もういっぺん生クリームを泡立ててもらって、僕たちはケーキ作りに取り掛かったんだ。
そして。
「なんと! スポンジケーキと生クリーム、それぞれ単品でもかなりの美味じゃったが、それを合わせるとこれほどの味になるとは」
「伯爵。これをお持ちすれば、りょ……お孫さんも喜ばれるのでは?」
作ったクイーンベリーケーキを出してあげたら、それを食べたロルフさんたちは大喜び。
おいしいものが大好きって言う、ロルフさんのお孫さんにも持ってってあげたら? なんて言ってるんだよ。
それにね、ノートンさんやカテリナさんも、このクイーンベリーケーキが気に入ったみたい。
「クイーンベリー以外の材料は比較的手に入れやすいものばかりなのに、それでこれだけの味の菓子が作れるというのは凄いな」
「そのクイーンベリーも、別の果物に変えてもおいしいと思うのですよ」
カテリナさんの言う通り、このケーキにはいろんな果物が合うんだよね。
このクイーンベリーみたいに、僕の知らない果物がまだいっぱいあるはずだもん。
「今度露店市に行って、ケーキに合いそうな果物、探そっかなぁ」
僕はそう言いながら、前の世界にあったショートケーキそっくりの味のクイーンベリーケーキをパクって食べたんだ。
やっとケーキができました! そして形や大きさこそ違いますが、イチゴのような果物も発見です。
イチゴはケーキ以外にも、ジャムやかき氷シロップにも使えますし、アイスクリームに入れてもおいしいです。
そのようなものが本編に出てくるかは解りませんが、少なくともルディーン君は作ってスティナちゃんに出してあげる事でしょうw